それは八月の下旬、連日続く猛暑の中での出来事でした。自宅の二階で過ごしていると、天井の奥から「カサカサ」という、何か硬いものが擦れるような乾いた音が聞こえるようになったのです。最初はネズミか何かだと思い、あまり気に留めていませんでしたが、数日が経過するうちにその音は「ブーン」という低い唸り音に変わり、さらには家の周囲を鮮やかな黄色のハチが頻繁に飛び回る様子が目につくようになりました。不安になり、勇気を出して屋根裏の点検口を少しだけ開けて覗き込んだ瞬間、私は全身の血が凍りつくような光景を目にしました。そこには、大人が抱えるほどの巨大な、茶褐色の縞模様が渦巻く球体が鎮座していたのです。それは、かつてテレビのドキュメンタリー番組で見たことのある、キイロスズメバチの巨大な巣そのものでした。後で専門業者の方に聞いた話では、どうやら春先に庭の生け垣の奥で作られていた小さな巣から、屋根裏という安全で広大な場所を見つけて集団で引越してきたのだそうです。屋根裏は外敵から完全に守られ、温度も一定に保たれているため、彼らにとっては天国のような場所だったのでしょう。巣の表面には、数え切れないほどのハチが蠢いており、点検口からの僅かな光と振動に反応して、一斉に羽を震わせ始めました。その音の凄まじさは、まるで巨大な機械が稼働しているかのようで、私は恐怖のあまりすぐに点検口を閉じ、崩れ落ちるように一階へ逃げ戻りました。キイロスズメバチの巣は、外からは見えなくても、家の構造の僅かな隙間から侵入して内部で巨大化することがあるという事実を、私は身をもって知ることとなりました。駆除作業は防護服を身にまとった二人のプロによって行われましたが、巣の中から出てきたハチの死骸の量は、ゴミ袋が一杯になるほどでした。業者の話では、もし発見があと一ヶ月遅れていたら、巣の重みで天井板がたわんだり、ハチが室内へ突き抜けてきたりする危険さえあったとのことです。あの日、屋根裏から聞こえてきた音は、彼らが巣を拡張するために内壁を削り、和紙のような巣の材料を塗り固めていた音だったのです。自分たちの頭上で数千匹の猛毒を持つ軍団が生活していたと思うと、今でも夜に物音がするだけで飛び起きてしまいます。キイロスズメバチは、私たちの想像もつかないような場所に、音もなく、しかし確実にその帝国を築き上げているのです。