私は以前、ナチュラルな生活に憧れてベランダ一面にミントの鉢を並べていたことがありました。インターネットで「ミントの香りはゴキブリが嫌うので最強の防虫剤になる」という情報を読み、化学的な殺虫剤を使わずに済むならこれほど素晴らしいことはないと考えたからです。数種類のミントを買い込み、毎日欠かさず水をやり、茂っていく緑を見ては「これで我が家はゴキブリから守られている」と確信していました。しかし、その自信は一年目の夏に無残にも打ち砕かれました。ある夜、窓を開けて涼んでいたところ、ベランダのミントの茂みから大きなゴキブリが悠々と室内へ侵入してきたのです。驚いて外を確認すると、なんとミントの鉢の底や、葉が重なり合った暗がりに、複数のゴキブリが潜んでいるのを発見しました。あんなに強い香りが漂っているのに、なぜ彼らは平気でいられるのか。混乱しながら調べてみると、衝撃的な事実が分かりました。ミントの香りは確かに嫌なものであっても、ゴキブリにとって生きるために必要な「水」と「隠れ家」の方が優先順位が高かったのです。私が良かれと思って行っていた毎日の水やりが、彼らにとっての給水所となり、生い茂ったミントの葉は、天敵や日光から身を隠す最高のシェルターになっていたのでした。特に、鉢と床の間にできるわずかな隙間は、適度な湿気がこもり、ミントの成分も届かない安住の地と化していました。さらに、ミントの勢いが強すぎて枯れてしまった下葉が湿って腐り、それが彼らの格好の餌になっていたことも判明しました。結局、私のミント農園は、ゴキブリを追い払うどころか、ベランダに巨大な「ゴキブリマンション」を建設していたようなものだったのです。私は泣く泣く全ての鉢を処分し、ベランダを洗浄しましたが、あの時のショックは今でも忘れられません。天然の対策という聞こえの良い言葉の裏には、生き物を育てるがゆえのリスクが必ず伴います。もしあの時、もっとこまめに剪定をして風通しを良くし、鉢を床から浮かせて乾燥させていれば結果は違ったかもしれませんが、素人の「置きっぱなし栽培」では逆効果にしかならないことを痛感しました。ハーブの力を信じるなとは言いませんが、それを上回る彼らの生存本能を侮ってはいけません。