夏の夜、網戸や部屋の壁に、オレンジと黒の鮮やかなツートンカラーをした、アリによく似た小さな虫がとまっているのを見かけたことはありませんか。体長わずか6~7ミリ程度のこの虫こそ、その名を聞くだけで恐ろしい皮膚炎を連想させる「やけど虫」です。正式名称は「アオバアリガタハネカクシ」と言い、ハネカクシという甲虫の仲間です。彼らは、人間を刺したり咬んだりすることはありません。それなのに、なぜ「やけど虫」という物騒な名前で呼ばれるのでしょうか。その理由は、彼らの体液にあります。この虫の体液には、「ペデリン」という強力な毒素が含まれており、この体液が人間の皮膚に付着することで、まるで火傷をしたかのような、激しい炎症を引き起こすのです。この被害のメカニズムは非常に特徴的です。例えば、腕にとまったやけど虫を、そうとは知らずに手で払いのけたり、叩き潰したりしてしまうと、虫の体から滲み出た毒液が、皮膚の上で線状に塗り広げられます。すると、数時間後から翌日にかけて、その毒液が付着した部分が、きれいに線状のミミズ腫れとなり、ヒリヒリとした痛みと共に赤く腫れ上がり、やがて水ぶくれを形成します。これが、やけど虫による被害の典型である「線状皮膚炎」です。このため、家の中や体の上でこの虫を見つけたとしても、絶対に素手で触ったり、叩き潰したりしてはいけません。それが、被害を最小限に食い止めるための、最も重要な鉄則なのです。もし見つけた場合は、ティッシュペーパーなどで優しく包み込むようにして捕まえ、屋外に逃がすか、あるいは潰さないように袋に入れて処分するのが賢明です。見た目は小さく、一見すると無害そうに見えるこの虫が、実は強力な化学兵器をその身に秘めているという事実。それを知っているかどうかが、不快で痛みを伴う皮膚炎に悩まされるか否かの、大きな分かれ道となるのです。
やけど虫の正体と触れてはいけない理由