キイロスズメバチは、日本に生息するスズメバチ属の中でも最も環境適応能力が高く、私たちの生活圏において最も頻繁にトラブルを引き起こす種として知られています。その最大の特徴は、営巣場所を季節に応じて変更する「引越し」という極めて珍しい習性にあります。春先に冬眠から目覚めた女王バチは、まず雨風を凌げる閉鎖的な空間、例えば生け垣の根元や床下、あるいは閉まりきった戸袋の中などに最初の巣を作り始めます。この初期の巣は、逆さまにしたトックリのような形をしており、女王バチが一匹で数匹の働きバチを育て上げます。しかし、初夏になり働きバチの数が増えてくると、最初に選んだ狭い場所では手狭になり、彼らはより開放的で巨大な巣を構築できる場所へと集団で移動を開始します。これがキイロスズメバチ特有の引越しです。引越し先に選ばれるのは、住宅の軒下や高い木の枝、あるいはマンションのベランダといった高所が多く、わずか数週間のうちにバレーボール大から、最盛期には直径五十センチメートルを超える巨大な球体状の巣へと急成長させます。巣の外観は、土色や薄茶色の模様が層状に重なった美しいマーブル模様が特徴で、これはハチが様々な種類の樹皮を噛み砕いて唾液と混ぜ合わせ、いわば「和紙」のような素材を作り出しているためです。巣の内部は多層構造になっており、数千匹から時には一万匹を超える働きバチを収容することが可能です。この圧倒的な個体数こそが、キイロスズメバチの最大の脅威です。他のスズメバチが数百匹程度の規模に留まることが多いのに対し、キイロスズメバチは圧倒的な物量で防衛行動を行います。巣の表面には常に数多くの見張り役が配置されており、人間が巣の数メートル以内に近づいただけで、一斉に飛び出してきて威嚇行動を開始します。彼らは非常に攻撃的で、一度ターゲットを決めると執拗に追いかけてくる性質があるため、住宅街で発見された場合は決して自分たちで解決しようとしてはなりません。特に、引越し後の巣は急激に防衛本能が高まっているため、昨日までなかった場所に突然現れた巨大な巣は、すでに完成された軍隊の砦であると認識すべきです。巣の発見が遅れる理由の一つに、初期の巣が目立たない場所に隠されていることが挙げられますが、軒下に突然現れるマーブル模様の塊は、周囲の安全を脅かす重大なシグナルです。この芸術的ですらある構造物の中には、高度な社会性と強力な毒針、そして巣を守るための容赦ない本能が詰まっていることを正しく理解しなければなりません。
キイロスズメバチの巣の特徴と引越しを繰り返す独自の習性