やけど虫という、少し特殊な害虫を前にした時、良かれと思って取った行動が、実は症状を悪化させたり、被害を拡大させたりする、最悪の一手になってしまうことがあります。ここでは、多くの人が陥りがちな、やけど虫対策における「よくある間違い」を解説します。正しい知識を身につけ、致命的なミスを避けましょう。間違いその1は、「見つけたら、叩き潰す」。これは、最も危険で、絶対にやってはならない行為です。前述の通り、やけど虫の脅威は、その体液に含まれる毒素「ペデリン」にあります。叩き潰すという行為は、この毒液を自ら周囲に撒き散らすことに他なりません。床や壁で潰せば、その毒が残り、後で触れた家族が被害に遭うかもしれません。体の上で潰せば、最悪の線状皮膚炎が確定します。正解は、潰さずに、紙やティッシュでそっと捕らえ、外に逃がすか、袋に入れて捨てることです。間違いその2は、「刺されたと思い、毒を口で吸い出す」。ハチやムカデに刺された際の応急処置として、毒を吸い出すという方法が知られていますが、やけど虫の場合は全くの見当違いです。彼らは人を刺すのではなく、体液が付着することで被害が出ます。口で吸い出すなどすれば、口の粘膜に毒が付着し、口内炎や唇の腫れといった、さらに深刻な事態を引き起こしかねません。正解は、口ではなく、大量の流水と石鹸で洗い流すことです。間違いその3は、「かゆみ止めだけを塗って様子を見る」。やけど虫による皮膚炎は、単なるかゆみではなく、強力な「炎症」です。市販のかゆみ止め(抗ヒスタミン成分のみ)だけでは、この強い炎症を十分に抑えることはできません。正解は、炎症そのものを鎮める作用のある「ステロイド軟膏」を使用することです。間違いその4は、「できた水ぶくれを、自分で針で潰す」。水ぶくれの皮は、外部の細菌から傷口を守る、天然の絆創膏の役割を果たしています。これを無理に破ると、細菌感染(二次感染)のリスクが非常に高まり、化膿したり、治った後も醜い跡が残ったりする原因となります。正解は、自然に破れるか、吸収されるのを待つことです。これらのよくある間違いは、全て「敵を知らない」ことから生まれます。やけど虫は、他の虫とは違う。その特殊な攻撃方法を理解することこそが、正しい対策への第一歩なのです。