今思い出しても、背筋が凍るような体験です。あれは数年前の夏、家の物置の軒下に、アシナガバチの巣ができているのを見つけました。大きさはソフトボールくらい。ネットで調べると「アシナガバチは比較的おとなしい」「このくらいの大きさなら自分でできる」といった情報が目につきました。業者に頼む費用も惜しかった私は、「これならいける」と安易に自力駆除を決意してしまったのです。これが、すべての間違いの始まりでした。私の準備は、今思えばあまりにも杜撰なものでした。厚手のパーカーにジーパン、帽子とマスク、そして軍手。ホームセンターで買ってきた蜂用の殺虫スプレー一本だけを手に、私は夕暮れ時を待って物置へ向かいました。防護服とは名ばかりのその格好で、風向きもろくに確認せず、巣に近づきました。心臓はバクバクと鳴っていましたが、恐怖よりも「早く終わらせたい」という焦りの方が勝っていました。巣から2メートルほどの距離で、私はスプレーのトリガーを引きました。ブシューッという音と共に白い薬剤が巣にかかります。しかし、その瞬間、私の想像を絶する光景が繰り広げられました。巣から数十匹のアシナガバチが、まるで黒い弾丸のように一斉に飛び出してきたのです。パニックになった私は、スプレーを噴射し続けることも忘れ、「うわっ」と声を上げて後ずさりしました。その動きと声が、彼らの怒りに火をつけたのでしょう。数匹の蜂が、私めがけて猛然と襲いかかってきました。首筋と右腕に、焼けるような鋭い痛みが走りました。二箇所、刺されたのです。私はスプレーを放り出し、絶叫しながら家の中に転がり込みました。腕と首はみるみるうちに腫れ上がり、激しい痛みで夜も眠れませんでした。幸い、アナフィラキシーショックには至りませんでしたが、数日間、痛みと腫れ、そして何より自分の愚かさへの後悔に苦しみました。結局、残された巣は専門業者にお願いして駆除してもらいました。プロの仕事ぶりを目の当たりにし、自分の行為がいかに無謀で危険だったかを痛感しました。知識の生半可な理解と、準備の甘さが招いた大失敗。あの日の痛みは、私に自然の脅威と専門家への敬意を教えてくれた、忘れられない教訓となっています。