大切な家具や、新築の家のフローリングから、ある日突然キクイムシの木くずが出てくる。この現象は、多くの人にとって不可解に思えるかもしれません。「一体、この虫はどこからやって来たのだろう」と。実は、キクイムシの侵入経路は、他の多くの害虫とは少し特殊です。彼らは、ゴキブリのように家の隙間から歩いて侵入してくるわけではありません。多くの場合、キクイムシは「木材そのものに潜んだ状態」で、私たちの家に持ち込まれるのです。キクイムシの被害は、製材や加工の段階で、すでに始まっています。伐採された木材が乾燥するまでの間に、成虫のキクイムシが飛来し、その表面に卵を産み付けます。その木材が、卵が産み付けられていることに気づかれないまま、フローリング材や家具の材料として加工され、私たちの家に届けられます。そして、数ヶ月から数年後、家の中の暖かい環境で、木材の内部で卵から孵った幼虫がゆっくりと成長し、やがて成虫となって穴を開けて出てきた時、私たちは初めてその存在に気づくのです。つまり、キクイムシの発生は、多くの場合、施工業者や家具メーカーの責任であるとも言え、家の管理不行き届きが直接の原因ではないケースがほとんどです。特に、海外から輸入された木材や、それを使って作られた安価な輸入家具などは、検疫や管理が不十分な場合があり、キクイムシが潜んでいるリスクが高いとされています。では、私たちはこの見えない侵入者に対して、なすすべがないのでしょうか。そんなことはありません。予防のためにできることはあります。まず、新築やリフォームの際には、使用する木材が、薬剤による防虫処理や、虫が活動できないレベルまで乾燥させるKD材(人工乾燥材)であるかを確認することが重要です。また、家具を購入する際、特に無垢材を使用したものや、ラワン材、竹製品などを選ぶ場合は、信頼できるメーカーから購入し、保証の有無などを確認すると良いでしょう。成虫のキクイムシが、家の外から飛来して、既存の家具や建材に産卵する可能性もゼロではありません。家の網戸をきちんと閉め、不要な木材を家の周りに放置しないといった、基本的な防虫対策も、二次被害を防ぐ上では有効です。見えない敵の侵入経路を知ることが、被害を未然に防ぐための、賢明な第一歩となるのです。