やけど虫、アオバアリガタハネカクシが、なぜあれほどまでに激しい皮膚炎を引き起こすのか。その力の源となっているのが、彼らの体液に含まれる「ペデリン」という、極めて強力な毒素です。このペデリンという物質の正体と、その作用メカニズムを理解することは、やけど虫の真の恐ろしさを知り、適切な対処を行う上で非常に重要です。ペデリンは、アミド結合を持つ複雑な構造の化合物で、生物が作り出す毒素の中でも、トップクラスの毒性を持つことが知られています。その毒性は、一説にはフグの毒であるテトロドトキシンよりも強く、コブラの毒に匹敵する、あるいはそれ以上とも言われるほどです。ただし、これはあくまで注射などによって直接体内に注入した場合の致死毒性の話であり、皮膚に付着しただけで命に関わることは、まずありません。しかし、その皮膚に対するダメージは絶大です。ペデリンが皮膚の細胞に接触すると、細胞の分裂に不可欠なタンパク質の合成や、DNAの合成を強力に阻害します。これにより、皮膚細胞は正常な活動ができなくなり、次々と死滅していきます。これが、火傷のように皮膚がただれ、水ぶくれができるメカニズムです。つまり、やけど虫による皮膚炎は、アレルギー反応ではなく、強力な毒素による「化学熱傷(かがくねっしょう)」、すなわち化学物質による火傷の一種なのです。このペデリンの最も厄介な性質が、その「接触毒」としての強さです。毒液が付着した手で、体の他の部分、例えば顔や首などを無意識に触ってしまうと、その触れた場所にも次々と炎症が広がっていきます。これを「自家接種」と呼びます。もし、万が一、ペデリンを含んだ体液が目に入ってしまった場合は、さらに深刻です。結膜炎や角膜炎を引き起こし、最悪の場合、失明に至る危険性さえあります。やけど虫の被害に遭った際に、患部を絶対にこすらず、すぐに徹底的に洗い流すことが推奨されるのは、この強力な接触毒を、他の健康な皮膚や粘膜に広げないためなのです。小さな虫の体内に秘められた、驚異的な毒性。その知識は、私たちに最大限の警戒心を持つことの重要性を教えてくれます。