キッチンや食品庫で発見される「ゴマみたいな虫」の正体として、最も可能性が高いのが「シバンムシ(死番虫)」です。体長はわずか2~3ミリ、赤褐色の丸みを帯びた甲虫で、その小さな体からは想像もつかないほど、広範囲の乾燥食品を食い荒らす大食漢です。彼らの名前は、英語名の「Deathwatch beetle」に由来し、昔の木造家屋で、成虫が木材に頭を打ち付けて出す「コツコツ」という音が、死を待つ病人の枕元で時計が時を刻む音に似ていることから、この不吉な名前が付けられたと言われています。シバンムシの幼虫は、白いイモムシ状で、その主食はデンプン質です。そのため、小麦粉や片栗粉、パン粉といった粉製品、パスタや素麺、ビスケット、さらにはペットフードや漢方薬、そして畳の原料である乾燥したワラまで、驚くほど多岐にわたるものを食べます。彼らの被害の最大の特徴は、成虫が羽化して出てくる際に開ける、直径1~2ミリの、まるで針で刺したかのような小さな丸い穴です。食品の袋や、本の表紙、畳の表面に、こうした小さな穴が空いていたら、それはシバンムシが内部で繁殖していた動かぬ証拠です。彼らは非常に繁殖力が高く、一度発生を許すと、気づいた時には食品庫の中が彼らの巣窟と化していることも少なくありません。シバンムシの被害を防ぐための基本は、食品の徹底した密閉管理です。購入した時の袋のまま保管するのではなく、必ずパッキン付きの密閉容器に移し替えること。そして、もし発生してしまった場合は、被害にあった食品を速やかに廃棄し、保管していた棚を徹底的に清掃することが、被害の拡大を食い止めるための唯一の道となるのです。