私たちの暮らしの中に、目には見えないながらも、確実に存在し、健康に影響を及ぼす小さな同居人がいます。それが「だに」です。多くの人が「だに」と一括りにしていますが、実は家の中に生息するだににはいくつかの種類があり、その性質は異なります。家屋内にいるだにの9割近くを占めると言われるのが「チリダニ(ヒョウヒダニ)」です。体長はわずか0.3ミリ程度で、人を刺すことはありません。彼らの主食は、私たち人間から剥がれ落ちるフケやアカ、食べこぼしなどです。そして、もう一つが「ツメダニ」。体長は0.5ミリから1ミリ程度で、このツメダニはチリダニなどを捕食しています。普段は人を刺しませんが、餌であるチリダニが異常繁殖すると、それに伴ってツメダニも増え、間違って人を刺してしまうことがあります。寝ている間に原因不明のかゆみに襲われるのは、このツメダニの仕業であることが多いのです。彼らがなぜこれほどまでに問題視されるのか。その最大の理由は、彼らのフンや死骸が強力な「アレルゲン(アレルギーの原因物質)」となるからです。これらが乾燥して微細な粒子となり、空気中に舞い上がり、私たちが呼吸と共に吸い込むことで、アレルギー性鼻炎や気管支喘息、アトピー性皮膚炎といったアレルギー疾患を引き起こしたり、症状を悪化させたりします。だにが繁殖するための好条件は、温度20~30度、湿度60%以上、そして豊富な餌。これは、現代の気密性の高い日本の住宅、特に布団やカーペット、布製のソファといった場所の環境と、見事に一致します。つまり、私たちの家は、知らず知らずのうちに、だににとって最高の繁殖施設となってしまっているのです。この見えない脅威から家族の健康を守るためには、まず敵の正体とその生態を正しく理解し、彼らが棲みにくい環境を意図的に作り出していくことが、何よりも重要となるのです。