どんなに気をつけていても、気づかないうちに腕や首筋にとまっていたやけど虫に触れてしまったり、潰してしまったりする不運な事故は起こり得ます。もし、やけど虫の体液が皮膚に付着してしまった、あるいはその可能性があると感じた場合、その後の症状を大きく左右するのが、直後に行う正しい応急処置です。パニックにならず、これから説明する手順を冷静に実行することで、被害を最小限に食い止めることができます。まず、最も重要で、一刻も早く行うべきなのが「洗浄」です。やけど虫の体液が付着した、あるいはその疑いがある部分を、すぐに大量の流水と石鹸で、優しく、しかし徹底的に洗い流してください。この時、絶対にやってはいけないのが、患部をゴシゴシと強くこすることです。こすることで、毒素を皮膚のより広い範囲に塗り広げてしまい、被害を拡大させる原因となります。石鹸をよく泡立て、その泡で毒素を包み込み、洗い流すようなイメージで、最低でも30秒以上は洗浄を続けましょう。次に、しっかりと洗浄した後は、患部を「冷却」します。清潔なタオルで包んだ保冷剤や、氷嚢などを当てることで、炎症の広がりを抑え、ヒリヒリとした痛みを和らげることができます。そして、応急処置の仕上げとして、市販の「ステロイド外用薬(軟膏)」を塗布します。やけど虫による皮膚炎は、アレルギー反応というよりも、毒素による化学的な火傷に近い、非常に強い炎症です。そのため、単なるかゆみ止め(抗ヒスタミン薬)だけでは効果が不十分な場合があります。炎症そのものを強力に抑える作用のあるステロイド軟膏を、用法用量を守って使用するのが最も効果的です。ただし、これらの処置はあくまで応急的なものです。もし、水ぶくれが広範囲に及ぶ場合や、痛みが非常に強い場合、あるいは万が一、毒液が目に入ってしまった場合は、失明の危険性もあるため、迷わず速やかに皮膚科や眼科を受診してください。触れてしまった後の数分間の行動が、その後の数週間の苦痛を大きく左右するのです。
もしやけど虫に触れてしまった時の応急処置