家の中で発見される「ゴマみたいな虫」の中で、他のどの虫とも一線を画す、最も危険な存在。それが「マダニ」です。特に、犬や猫などのペットを飼っているご家庭や、キャンプやハイキング、農作業など、屋外での活動が多い方は、最大限の警戒が必要です。マダニは、他の食品害虫や衣類害虫とは異なり、動物や人間の血を吸って生きる寄生虫です。そして、その吸血の過程で、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)やライム病、日本紅斑熱といった、時に命に関わるほどの重篤な感染症を媒介する可能性があるのです。吸血前のマダニは、体長3~4ミリ程度で、硬い甲羅に覆われた、まさに黒ゴマのような見た目をしています。彼らは、屋外の草むらや笹薮などに潜み、動物や人間が通りかかるのを待ち構えています。そして、衣類やペットの毛に付着して家に持ち込まれ、やがて皮膚に取り付いて吸血を開始します。吸血を始めると、その体はパンパンに膨れ上がり、小豆ほどの大きさになることもあります。マダニを他の「ゴマみたいな虫」と見分けるための最大のポイントは、やはり「発見場所」と「状況」です。食品庫やクローゼットではなく、ペットの体や、屋外から帰宅した直後の人間の体、あるいは脱いだ衣類から発見された場合は、マダニの可能性を第一に疑うべきです。もし、皮膚に食いついているマダニを発見した場合、絶対にやってはいけないのが、無理に引き抜こうとすることです。無理に引き抜くと、マダニの口器が皮膚の中に残り、そこから化膿したり、感染症のリスクを高めたりする危険性があります。また、潰してしまうと、マダニの体内の病原体を自ら体内に押し込んでしまうことにもなりかねません。皮膚に食いついたマダニを見つけたら、自分で取ろうとせず、そのままの状態で、速やかに皮膚科などの医療機関を受診してください。ゴマ粒一つが、人生を左右することもある。その知識が、あなたと家族の命を守るのです。