念願の新しい部屋に引っ越す際、最も心配だったのが「前の住人の置き土産」としてのゴキブリの存在でした。内見の時には綺麗に見えた部屋でも、家具のないガランとした空間こそが、彼らの潜伏状況を確かめる絶好のチャンスです。私は荷物を運び入れる前に、自分自身で徹底的な調査を行うことに決めました。まず用意したのは、強力な光を放つLED懐中電灯と、細い隙間を覗くためのデンタルミラーです。調査はキッチンの水回りから開始しました。シンク下の扉を開け、排水管が床に突き刺さっている部分に隙間がないかを入念にチェックしました。ここが数ミリでも空いていると、下水から上がってきたゴキブリの侵入経路になります。懐中電灯を当ててみると、管の周辺に黒い小さな粒が数個落ちていました。これこそが糞の痕跡ではないかと緊張が走りました。次に、クローゼットや押し入れの天袋に注目しました。隅の方をミラーで確認すると、茶色いプラスチックの破片のようなものが落ちており、それが脱皮した後の抜け殻であることに気づきました。さらに、部屋の四隅の壁紙がわずかに浮いている箇所を軽く叩いてみると、中が空洞になっているような音がしました。こうした隙間こそが彼らの隠れ家になるため、私は市販の冷却スプレーを隙間に噴射してみました。殺虫成分のないスプレーを選んだのは、もし潜んでいた場合にパニックになって飛び出してくるのを防ぎつつ、動きを止めて捕獲するためです。幸いにもこの時は何も出てきませんでしたが、部屋全体の「匂い」には敏感になりました。押し入れの奥を開けた時に感じた、独特のカビ臭さに混じる油っぽい臭いは、かつてそこに彼らがいたことを示唆しているように感じられました。私はさらに調査を進め、エアコンの配管ダクトや換気扇のフィルター付近、さらにはブレーカーボックスの中まで覗き込みました。電化製品の内部は暖かいため、彼らが冬場に避難場所として選ぶことが多いからです。最後に、私は部屋の数箇所に粘着トラップを仕掛け、一晩置いてみることにしました。翌朝、ドキドキしながらトラップを確認しましたが、一匹もかかっていませんでした。これでようやく、私の新居は「現時点ではクリーンである」という確信を持つことができました。しかし、調査の過程で見つけた排水管の隙間や壁の浮きは、将来の侵入リスクを孕んでいることも分かりました。家具を置く前にこれらの隙間をパテやテープで塞ぐという実利的な対策に繋げられたことが、今回の調査の最大の収穫でした。引っ越し前の数時間の苦労が、これからの安心な生活を守るための大きな投資になったと、今は確信しています。